round-table meeting

座談会

針谷建築事務所で座談会を開催しました。

<実施日:2019年12月5日>

針谷建築事務所は75年にわたり建築設計を通して、静岡の地に建築の足跡を記してきました。
現在在籍する30人の所員の中から若手所員中心とした5名と代表理事を交えて開催した座談会。意欲あふれる若いメンバーで語ることで見えてきた針谷建築事務所の“今”とは?

  • 鳥居 久保 コーディネーター

    鳥居 久保

    代表理事
  • 増田 晋

    増田 晋

    2011年入社
    設計室長
  • 堀川 佳奈

    堀川 佳奈

    2012年入社
  • 杉山 春輝

    杉山 春輝

    2014年入社
  • 西澤 裕希

    西澤 裕希

    2014年入社
  • 飯澤 舞

    飯澤 舞

    2017年入社

入所経緯・建築設計で意識していること

鳥居:

今日はリクルートサイトの座談会ということで、針谷に入所した経緯や建築設計で意識していること等について、みんなに聞いてみたいな。増田君はどうして針谷に入ることにしたの?

増田:

自分が設計した建築が建つなら、生まれ育った地元がいいと思っていました。だから静岡で事務所を探し始めて……。
なぜ針谷を選んだかというと、県内の設計事務所の中で、建築作品が一番好きだったからです。
特に鳥居さんが設計を担当された静岡市斎場に魅力を感じ、針谷に決めました。

鳥居:

なるほど、そうだったんだね。
ところで増田君は、建築を設計しているとき、都市と建築の関係をどのように意識しているの?

増田:

入所した頃は建築単体のことばかり考えていましたが、最近は少し広い視野をもつようになりました。
設計をする時はもちろん周辺の環境に配慮しますし、その中で建築がどのようなスケールで、どのような意味をもつのか――。機能的にもデザイン的にも意識しています。

鳥居:

増田君の話には「地元」と「スケール」という2つのポイントがあったね。
都市を考えるうえでも建築を考えるうえでも、スケールの『ちょうどよさ』というものは課題になる。
「地元」というキーワードについては、最年少の飯澤さんにも話を聞いてみたいな。

飯澤:

針谷に入る前に、高校でまちづくりの活動に関わっていました。そこで、普段利用している身近な建物の多くが針谷の設計であることを知ったのは、入所のきっかけの一つです。
日本平動物園299や市民文化会館、南部図書館。
針谷は、本当に静岡に住む人の生活に浸透している事務所ですよね。
設計の基本的なところから街づくりまで、あらゆる分野を学べそうだというのも、針谷を選ぶ上での大きな決め手になりました。

鳥居:

飯澤さんは地元の建築に育てられてきたんだね。
建築は、社会生活を営むうえで必須のもの。
建築という媒体をつくることは、人との関わり、都市との関わりを考えることになるんだよね。 杉山君は何を得るために針谷に入ったの?

杉山:

自分はまず、家をつくりたかったのを覚えています。
そこから少しずつ大きくなり、公共建築にも携わってみたいと思うようになりました。
今、自分の家を考えることもすごく楽しくて、建築の魅力を感じています。針谷では様々なスケールの建築設計ができると感じました。

鳥居:

杉山君と同級生の西澤さんは、どのように針谷に決めたの?

西澤:

私の場合、はじめから針谷を目指していた訳ではありませんでした。
大学の卒業設計で、自分で考え、決断する難しさとやりがいを感じ、是非それを仕事にしたいと思いまして。
とにかく設計――とくに意匠設計ができる就職先を探していました。
ハウスメーカーや大手設計事務所も考えましたが、最終的に一番思いが実現できそうな、針谷に決めました。

鳥居:

堀川さんの入所の経緯や針谷の印象はどんな感じかな?

堀川:

私は最初、住宅もパブリックな建築もやりたかったんです。でも、大手ゼネコンのような、すごい大きな建築はあまりやりたくなくて……。
学生の頃、静岡の設計事務所を探していた時、針谷のHPを見つけました。そのHPからは、建築に没頭している雰囲気が感じられて、興味を持ちました。
実際に入所してみて、当時の感覚の通り、建築に没頭している事務所だと感じています。

針谷建築事務所の特徴(組織について)

鳥居:

なるほど、そうなんだね。
なぜ、針谷は建築に没頭できる環境をつくることができたのか……。針谷の特徴って何だろう。
僕は社長がいないことだって思っているんだよね。
「組合」というと分かりにくいかもしれないけれど、針谷創設の頃から会社組織としてつくり過ぎず、設計者同士の緩やかな結合体であることを、理想の組織像として目指してきたんだと思う。
それぞれが目指す建築を、自分自身の努力や相互の支援でもって実現できる場所でありたいよね。
増田君、後輩に何かアドバイスできることはある?

増田:

針谷に入所した当時は、技術者としての知識を学ぶことが多かったように思います。
まずは建築がどうやってできているのか、その成り立ちを改めて知った後に、「自分がどんなものをつくりたいのか」「それをつくる為にはどうしたらいいのか」を突き詰めていく。
その中で足りないものを見つけ、自分の弱さを強みに変えながらやっていけば、つくり上げる建築のクオリティも上がっていくのではないかと思います。針谷には、それができる環境がありますよね。求めれば求めるだけ、学ぶことができる。

飯澤:

入所して3年間の「職員」だった頃と、その後の「組合員」になったことで、働き方や考え方に変化ってありましたか?

杉山:

働き方の変化は無かったかな。事務所への思いが強くなった。組合運営のことも意識するようになり、自分のことだけでなく、事務所のために何ができるか考えるようになったかな。最近ではBIMやIoTの活用、推進を行っていきたいと思っています。

増田:

自分の場合も、あまり変わらなかったかな。ただ、「組合員」になって総会でみんなの前に立ち抱負を話した時、初心に戻った気分になったのを覚えているよ。その後「委員長」になって、運営に関する仕事が増えた時、組合への意識が高まった気がする。

堀川:

私の場合は、組合員になったときより、一級建築士の資格を取得した時の方が意識の変化が大きかったかもしれません。
組合に関しては「職員」と「組合員」の差というより、委員長会議に出てから、組合運営に関することを考える機会が多くなりました。

鳥居:

僕たちの頃は1年を経過して2年目から組合員になったんだ。当時70名以上の所員がいて、その前に立って組合員としての抱負を話すのはとても緊張したよ。初心に返り頑張りたいと話したのを覚えている。
建築家としての人生にはいくつかのフェーズがあるよね。僕にとって、第一のフェーズとして組合員加入があったように思う。建築家人生が形成されるうえでの最初のハードルを、みんなは軽々と越えていってほしい。

建築設計について 言葉と建築

鳥居:

建築設計は言葉を組み立てる作業とよく似ていると思う。
建築の設計は、言葉の構築とも言えるよね。
現代の建築の基礎となった近代建築は、このような理論になっていた。
――いい言葉が生まれたとき、いい設計、いい空間や雰囲気、新しい建築が生まれる。
若い頃に感激した言葉は、刻み込まれ、設計に影響を与えているんじゃないかな。
みんなの好きな言葉って何?

西澤:

私は「しなやか」という響きが好きです。

鳥居:

大和言葉だね。言葉が人格を形成する。西澤さんの人柄を表しているね。
飯澤さんの好きな言葉は?

飯澤:

好きな言葉というと少し違うかもしれませんが、書き言葉より話し言葉に魅力を感じます。

鳥居:

なるほど。日頃会話の中で、幸せを感じているんだね。
会話をすることで幸せになったりモチベーションが上がるんだったら、こうやって事務所で顔を合わせて共同設計したりすることは、すごく意味があるよね。
増田君の設計には、どのような言葉が影響を与えていると思う?

増田:

自分は「かっこいい」ものを目指しています。
「かっこいい」とひとくちに言っても色々な要素があると思いますが……。
都市にも刺激を与えられて、そこから新しい街並みが広がっていくような建築をつくりたいですね。

鳥居:

「かっこよさ」とはシンプルな言い方だけど、目的であり結果でもあるよね。堀川さんは?

堀川:

私は、目指すべき建築像がまだ言葉になっていないかもしれません。
自分としては施主の想いが重要で、その土地の文脈から外れず、受け入れられる建築がいいなと思います。もちろん、自分の中にも理想はありますけどね。

鳥居:

なるほど。
堀川さんにとって施主と自分の考え方の開きを修正することって大変?

堀川:

著名な建築家であれば、自身の考え方を優先させて、設計を進められると思いますが、私の場合は施主を巻き込みながら、一緒につくっていかないといけないと思っています。ですから、施主との打ち合わせにすべてを注いでいます。

飯澤:

私も堀川さんの考え方に近いです。
施主の話をしっかり聞いて、そこに住むひとの生活になじむ、「気づいたらそこにあった」みたいな建築をつくりたい。

鳥居:

それはもう風景だよね。なにげない日常の中に、建築は存在している。
杉山君はどう?

杉山:

自分も設計の時はいつも施主を中心に考えています。施主が喜ぶものをつくりたい。
公共建築では、地域に住む市民や訪れる人々が施主であると思います。
大きな建築になれば対象者が増える。
多くの利用者が幸せになれる建築をつくりたいと思っています。

鳥居:

こうやって話していると、事務所のみんなのキャラクターって本当に重要だね。
みんなが考えている方向性に大きなズレがないというのは、今みんなが歩んでいる道と、将来目指すべき道が一致しているということ。
今後、大きな期待ができると思ったよ。
それぞれが自己実現できる環境が事務所にはあると思う。
みんなの発想力が設計では一番重要だよね。

建築設計について 建築は誰のものか

鳥居:

施主に喜ばれる建築をつくりたいという話が多かったけど、建築とは誰のものだと思う?

飯澤:

私は、建築はみんなのものだと思います。「みんな」の捉え方が難しくてずっと考えていますが……。
博物館のプロポーザルの時、見学者以外の市民や観光客も「みんな」に該当するのか考えました。訪れる人が変化する中で、全ての人に対応することが求められていると……。

杉山:

僕も「みんなのもの」と考えています。まずはその地域、大きな建築では世界の人のもの。建築の持っているポテンシャルによって変わってくると。

増田:

自分としては、建築は設計者のもの!

一同:

おー!!

増田:

まって、続きがあるから(笑)
施主にとっては自分のもの。施工者にとっても自分のもの。
そう言える建築が本当にいいと思います。

建築設計について 環境(地域性)

堀川:

普段身の回りにある日用品だって、生活するうえでみんなの目にふれる、いわば「みんなのもの」だと思うんですけど、建築に対する感覚って、それらとは少し違いますよね。

西澤:

私の家の目の前には、針谷が設計した建築が建っています。
それはもちろん私のためのものではないのですが、ある日急にポンとなくなったら、きっと寂しいと思う。
そういうところに改めて、建築の公共性、地域での重要さを感じます。

堀川:

その場所を利用するみんなのものだからといって、無個性にすればいいというわけではないんですよね。
施主の個性がでていたり、設計者・施工者の思いが込められていてほしい。
それが街を形づくっていく、というのが理想の形ですね。

西澤:

利用者や、静岡という地域の人に愛着を持ってもらえる建築を設計したいです。
その思いがどんどん広がって、派生していくといい。

鳥居:

地域の人たちに「この建築はみんなのものだ」って言われたら、設計者は一番嬉しいよね。

建築設計について 価値観と世代

鳥居:

少し話題を変えてみようか。杉山君、この際みんなに聞いてみたいことって何かある?

杉山:

そうですね……。みんな、建築が好きだと思いますが、他に何に興味を持っているかとか。そのことが、建築とどのように関わっているかを聞きたいです。

飯澤:

私は映画が好きです。
「こういう人は、こんなところで生活しているんだ」とか、「こういう街にはこんなお店があるんだ」とか、誰かの暮らしを覗き見ているような感じで。
例えばその中で素敵なパン屋さんがあったりすると、設計の意欲につながったりします。

増田:

自分は地元の祭りが好きですね。
祭りには様々なメンバーがいて、一つのことをやり遂げるというところで、建築設計との共通点があるようにも感じます。
町内の様々な方を相手に進めていかなければいけない点なども、建築と同じかもしれないです。

堀川:

私は旅行が好きで、風景を見たり街あるきをするのが好きです。
住んでいる人のものが窓や外にあふれ出していたりとか、場所や建築を使いこなしているのを見るのが好きです。 そういうストーリーを感じるものがあると、ずっと眺めてしまいます。
設計をする際にも、人の生活にまつわるストーリーを想像しながらやっています。

西澤:

私は様々なものの「質感」を見るのが好きです。
絵画や服、動画やアニメーションなどに、直接的な肌触りだけでなく、陰影や動き、重量感といった様々な質感があると思います。本当に最近ですが、自分が、その「質感」を気にしているということに気づきました。
つくり手の技術で、見る人の受ける感覚が全然違ってくるということがありますが、それは建築でも同じだと思います。

鳥居:

西澤さんの話、すごくよくわかるな。
今はオリジナルを持てない時代。いろんなデザインがインターネットの画像で検索できるから、コピーがコピーを生んでいる。
そんな現代において、人との違いをどう出すか。
その小さい違いを創作性に落とし込みたいと言っているように聞こえたよ。
なかなかオリジナリティがつくれない中で、いかに針谷的かというのをこれからも追求していかないとね。

杉山:

本当にそうですね。
鳥居さんは、建築のほかにどんなことに興味がありますか?

鳥居:

僕は、哲学の解説書を読むのが好き。
磯崎新が使う難解な建築の言葉は、哲学からきている。
だからそれを読むと、磯崎新がわかるんだよね。

杉山:

鳥居さんの興味は、常に建築とともにあるんですね。

鳥居:

こうして話していて思うのは、生まれた世代により様々な思想があるということ。そして同世代の間にはなんらかの共通性があるように感じられるよね。
建築は、そういう世代による思想の違いをフラットにしてつくるもの。
みんなも思想を一度フラットにして考えていくと、建築という概念が拡張していくんじゃないかな。

杉山:

なるほど。
こういう場を設けたことによって、改めてみんなから興味深い話を聞くことができて、とても良かったです。

今後について 将来の夢

増田:

これからのことについても話してみようか。
みんなの将来の夢って何?

飯澤:

私は、針谷の所長になりたいです。
自分で針谷以上の事務所をつくれる自信が無いので……。静岡という街をつくっていくのであれば、針谷の所長になりたい。

杉山:

僕は、美術館を設計したいです。

堀川:

私は、カフェの店長をやってみたいですね。
建築は好きなので辞めたくはないんですけど、視野をまちづくりに広げると、カフェっていうのはすごくいい場所ですよね。
針谷カフェの店長になって、設計もしたい。

西澤:

すごく長いアプローチがある建物をつくってみたいですね。
谷口吉生さんの設計した、葛西臨海水族館のような建物。

鳥居:

僕は、昔保育士になりたかったんだよね。子供が好きだから。
大人の現実味やルール、硬さが嫌いで。こどもの純粋な表情が好き。
だから、保育園をつくりたいんだ。単純に、設計するというだけではなくてね。
わざとらしくない、自然な保育園がいいなと思う。園長になりたいわけではないんだけどね。

増田:

僕は……「建築家」になりたい。

堀川:

建築家かぁ。たしかに、設計士と建築家の違いはありますね。
針谷は、建築家の下についている設計事務所ではないですよね。
針谷の中で建築家になっていくにはどうしたらいいんだろう。
なんだか自分から名乗るものではないような気がして。

増田:

自分で「建築家です」と言える自信が持てるかどうかかな。
「建築家です」と言って恥ずかしくない設計作品をもっているかどうか。

堀川:

「建築家……いや設計士です」ってなってしまうんですよね。
鳥居さん、どうしたら建築家になれますか?

鳥居:

うーん、そうだね。
昔は情報を手に入れることが難しかったから、設計をしていて、海外や近代の建築事情を知っている人は建築家であったように思う。
現代はどこにいても情報が瞬時に手に入るから、そこでの判断は難しいよね。
これからの建築家像がどうなっていくのかは、僕にもわからない。
「かっこよさ」の追求はやりつくされている感があるから、そういう中では、建築における思想を言葉で語ることが求められると思う。
BIM等の技術を使えば仮想現実のなかで何でもできるんだけど、それを現実世界に建築する意味を語ることができる人こそが、建築家なんじゃないかな。

堀川:

今後、針谷の中から建築家は生まれていくんでしょうか。
対外的に、若い人達の名前はまだあまり出ていないですよね。

鳥居:

出せるところもあるから、作品と名前を打ち出していけばいいと思うよ。
今の段階では、一般の人からは、まだまだ針谷内の個人が知られていないよね。
まずは針谷の作品を、世の中の人に知ってもらう。模型でもポスターでもいいから。
そうやって針谷が認知されると、今度は針谷の○○さん、という風に広がっていくよね。

堀川:

なるほど!
針谷事務所は昔から、個人の創造性と集団としての組織力の両方を大切にしてきたと先輩から聞いたことがありますが、その意味が分かってきた気がします!

今後について これからの目標

西澤:

みなさんの短期的な目標は何ですか?

飯澤:

たくさんあります。
まずは二級建築士の取得。
あとは、現実的ではないですけど、一カ月くらい休みをとって、他の事務所に行ってみたいですね。
インターンも針谷で、他の事務所を知らずにここに入ってきているから、他の事務所がどのような設計のプロセスをしているか経験してみたいです。

杉山:

僕は、自分の家を建てたいです。

一同:

おおー!!

堀川:

もう模型つくってるよね。

杉山:

中学生が職場体験に来た時に、見本として少しつくりましたね。
コンセプトは部屋の無い家。狭くていい。

堀川:

部屋が無くて狭いって生活できないんじゃない?今度デザインレビューしよう。

一同:

(笑)

増田:

僕の目標は、平和に過ごすこと。世界も周りも平和だといいね。

堀川:

片づけをする。
脳内が整理される気がするんですよね。
それによって、信頼されるようになるんじゃないかと思っています。

鳥居:

僕はフランク・ロイド・ライトの建築が見たい。ヨーロッパの建築は見たんだけど、アメリカの建築はまだ見ていないからね。
もう一つ見たいのは、アルヴァ・アアルト。近代建築に地域性を入れこんだ作品に興味がある。

西澤:

私は自転車を買いたいです。10万円いかないくらいのやつがいいかな。

鳥居:

それでは、そろそろ締めに入りましょうか。

増田:

こんな風にみんなで集まって話すのが久しぶりだったので、楽しかったです。

堀川:

いい新人さんが来てくれるといいね。

杉山:

そうですね。座談会を見てきてくれるといいですね。